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大阪地方裁判所 昭和63年(行ウ)3号 判決

大阪市城東区野江二丁目一〇番一五号

原告

都島興産株式会社

右代表者代表取締役

大野照夫

右訴訟代理人弁護士

石田一則

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

谷川和穂

右指定代理人

下野恭裕

福原章

龍神仁資

芳賀貴之

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一九七万一二〇〇円、及び内金四八万五三〇〇円に対する昭和五八年九月一三日から、内金一六万二九〇〇円に対する同年一〇月二二日から、内金七〇万二〇〇〇円に対する同年一一月二二日から、内金六二万一〇〇〇円に対する同年一二月二七日から各完済まで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は城東税務署長に対し、その製造場所から移出した全自動麻雀配牌機「無双」が物品税法別表第二種第一三号3の「テーブル」に該当するとして物品税の申告(以下「本件申告」という。)をし、これに基づき、昭和五八年八月分から同年一〇月分の物品税として、次のとおりの金員を納付した。

(一) 昭和五八年八月分の物品税の内金として、昭和五八年九月一二日に金四八万五三〇〇円を、同年一〇月二一日に金一六万二九〇〇円

(二) 同年九月分の物品税として、同年一一月二一日に金七〇万二〇〇〇円

(三) 同年一〇月分の物品税として、同年一二月二六日金六二万一〇〇〇円

2  しかし、本件申告には、次のとおり、客観的に明白かつ重大な錯誤があり、しかも国税通則法等に定める方法以外にその是正を許さないならば、原告の利益を著しく害すると認められる特段の事情が存在するから、錯誤により無効であるというべきである。

(一) 「無双」は、物品税法別表第二種第一三号3に掲げられる「テーブル」には該当せず、物品税の課税物品ではない。

すなわち、「無双」は、磁力及び電気による機械操作により洗牌、積牌、配牌がすべて自動的に行われる全自動式麻雀テーブルであって、その用途は専ら麻雀ゲームに限定されるし、その形態もテーブル部分の中央にさいころを格納する部分があり、かつ、その周辺に麻雀牌を落とし込むための切り口及び牌積みのための切り口があるなど、性状、機能、用途からみて麻雀ゲーム専用の自動配牌機器というべき物品である。

このことは、昭和六〇年三月五日付け国税庁消費税情報第三号によっても確認されている。

(二) 原告は、「無双」の製造販売に先立ち、牌の自動攪拌及び伏牌機能を有する麻雀テーブル「マグジャン」の製造販売を行っていたが、「マグジャン」が、物品税の課税物品である「テーブル」に該当するか否かについて再三にわたって国税庁あるいは城東税務署長に照会をしてきた。これに対して、国税庁及び城東税務署長は、一貫して、「マグジャン」は、物品税の課税物品である「テーブル」に該当する旨の教示を続けてきた。

更に、原告は、原告と同一建物に本社を有し、原告と実質的に同一会社ともいうべき訴外株式会社マグジャンの名をもって、城東税務署長に対して「無双」について同趣旨の照会をしたが、城東税務署長は、「無双」もまた物品税の課税物品である「テーブル」に該当する旨を教示した。

(三) 原告は、その性状、機能、用途に照らし「無双」が物品税の課税物品である「テーブル」には該当しないと考えていたが、右(二)の国税庁及び城東税務署長の誤った教示に従い、やむなく本件申告を行った。

(四) 以上のように、「無双」は、その性状、機能、用途からみて物品税法別表第二種第一三号3に掲げられる「テーブル」には該当しないにもかかわらず、原告は、これが「テーブル」に該当するものと誤信して本件申告をしたものであって、右錯誤は、「無双」の課税物品該当性にかかわる重大かつ明白なものであるというべきである。しかも、原告が右のような錯誤に陥ったのは、国税庁及び城東税務署長の誤った教示によるものであって、このような事情に照らせば、国税通則法等に定める方法以外にその申告に基づく納税につき是正を許さないならば、原告の利益を著しく害するものといえる。

3  よって、原告は被告に対し、国税通則法五六条に基づき、右の過誤納金一九七万一二〇〇円の支払と、内金四八万五三〇〇円に対するその納付の日の翌日である昭和五八年九月一三日から、内金一六万二九〇〇円に対するその納付の日の翌日である昭和五八年一〇月二二日から、内金七〇万二〇〇〇円に対するその納付の日の翌日である同年一一月二二日から、内金六二万一〇〇〇円に対するその納付の日の翌日である同年一二月二七日から各完済まで、国税通則法所定の年七・三パーセントの割合による還付加算金の支払とを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。ただし、原告が申告したのは麻雀テーブルと自動配牌機械とで構成される「無双」のうち、麻雀テーブル部分についてのものである。

2  請求原因2の冒頭の事実は否認し、その主張は争う。

(一) 同(一)の事実は、このうち、昭和六〇年三月五日付けで、原告主張の情報が出されたことは認め、その余の事実は否認する。

(二) 同(二)の事実は認める。

(三) 同(三)の事実は否認する。

(四) 同(四)の主張は争う。

三  被告の主張

以下に述べるとおり、全自動麻雀テーブルである「無双」が物品税の課税物品である「テーブル」に該当するという解釈は、本件申告の当時の行政解釈に合致したものであるのみならず、その解釈には相当の合理性がある。

しかも、原告は、「無双」の取引に際しては、テーブル部分と機械部分とを別売しているとしてテーブル部分についてのみ課税標準額及び税額を算出して本件申告をしているのであって、これらの事情に照らせば、本件申告の内容に、客観的に明白かつ重大な錯誤があり、しかも、国税通則法等に定める方法以外にその是正を許さないならば、原告の利益を著しく害すると認められる特段の事情が存在するとはいえない。

1  麻雀テーブルに対する物品税課税の沿革

昭和三七年三月三一日法律第四八号による全部改正までは、物品税法上、課税物品である家具類として麻雀卓子とその他の卓子が別々に掲げられ、それぞれ異なる課税最低限の金額が適用されていたが、右改正により、これが物品税法別表第二種第一三号3に「テーブル」として統合され、同一の課税最低限の金額が適用されることになった。以上のような法改正の経過からみて、麻雀テーブルが物品税法別表第二種第一三号3の「テーブル」に含まれることは疑いがない。

2  全自動型麻雀テーブルに対する物品税課税の沿革

そこで、物品税に関する所轄税務官署は、従来は一貫して、麻雀テーブルは全自動式、半自動式、手打ち式の区別なく、すべて課税物品である「テーブル」に該当するものとの統一的取扱をしてきており、その取扱にも相当の合理性があったというべきである。

もっとも、前記法改正後に開発されるに至った全自動型麻雀テーブルについては、麻雀テーブルの名称で取引がされ、麻雀ゲーム用のテーブルとして用いられる点に着目すれば、麻雀テーブルの範ちゅうに入るものと解される反面、積牌、配牌をすべて自動的に行うという機能に着目すれば、配牌機とでもいうべき物品ではないかととの疑念を差しはさむ余地があった。そこで、検討の結果、本件申告後である昭和六〇年三月五日に発せられた前記国税庁消費税情報第三号により麻雀テーブルのうち全自動式のものについては、これを物品税法別表第二種第一三号3の「テーブル」に該当しないものとすることにその取扱を修正したのである。

3  「無双」に係る物品税の申告納付の実情

課税物品の本体と部分品又は付属品とは、通常一体として使用されるものであるから、その全体が一個の商品として取引される場合には、その全体が一個の課税物品に該当することになる。しかし、製造業者が、本体とその部分品又は付属品とを各別に梱包し、別価格とするなど、それらが別個の商品として市場に提供されているものである場合には、これに対する物品税の課税に当たっては、それぞれが独立した商品であるものとして認定し、各別にこれが課税物品に該当するか否かの判定をしている。

原告は、このような税務上の取扱を充分に承知した上で、「無双」の販売に当たり、麻雀テーブル部分と機械部分とを別売することとし、右別売に係る麻雀テーブル部分についてのみ課税標準額及び税額を算出して本件申告を行った。

第三証拠

本件記録中の書証目録調書及び証人等目録調書記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  物品税の申告と納付

請求原因1の事実は、申告の対象物品の点を除き(この点については後記二4の認定参照)、当事者間に争いがない。

二  事実関係

1  「無双」の構造

原告代表者本人尋問の結果により成立の認められる甲五号証の一、二、官公署作成部分の成立につき争いがなく、原告代表者本人尋問の結果によりその余の部分の成立も認められる甲九号証及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告の製造販売に係る「無双」は、磁力及び電気による機械操作により洗牌、積牌、配牌をすべて自動的に行う機能を有する全自動式麻雀テーブルであって、その形態の点においても、テーブル部分の中央にさいころを格納する部分があり、かつ、その周辺に麻雀牌を落とし込むための切り口及び牌積みのための切り口があるなどの特徴を有する物品であるとはいうものの、麻雀テーブル一般に共通する性状、機能、用途をも有しているものと認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

2  物品税法の改正の経緯及び国税庁の解釈、運用

昭和三七年三月三一日法律第四八号による全部改正までは、物品税法上、課税物品である家具類として麻雀卓子と卓子類(麻雀卓子を除くと明記)が別々に掲げられ、それぞれ異なる課税最低限の金額が適用されていたが、右改正により、これが物品税法別表第二種第一三号3に「テーブル」とのみ規定されるようになったことは、当裁判所に顕著である。

成立に争いのない甲七号証の一に弁論の全趣旨を総合すると、国税庁は、右改正は、麻雀テーブルとその他のテーブルとの物品税法上の取扱を統合したものであり、全自動式、半自動式、手打ち式の区別なく、麻雀テーブルは、すべて物品税法別表第二種第一三号3の「テーブル」に該当するとの解釈を採り、課税実務上もこの解釈を前提とした課税ががされてきたことが認められる。

成立に争いのない乙四号証によれば、物品税の課税実務においては、課税物品である本体とその部分品又は付属品とを一体取引する場合には、その全体を本体である課税物品に該当するものとするが、製造業者が、本体とその部分品又は付属品とを各別に梱包し、当該部分品又は付属品と本体の価格を明らかに区別して表示し、それぞれの購入が消費者の自由な選択に委ねられているものとして移出する場合には、それぞれが独立した商品であるものとして認定し、各別にその課税物品該当性が判断されていた(物品税基本通達・昭和四一年一一月二四日付間消四-六八外二課共同)ことが認められる。

3  原告に対する教示

原告は、「無双」の製造販売に先立ち、牌の自動攪拌及び伏牌機能を有する麻雀テーブル「マグジャン」の製造販売を行っていたが、「マグジャン」が、物品税の課税物品である「テーブル」に該当するか否かについて再三にわたって国税庁あるいは城東税務署長に照会をしてきたこと、これに対し国税庁及び城東税務署長は、一貫して、「マグジャン」は、物品税の課税物品である「テーブル」に該当する旨の教示を続けてきたこと、原告は、原告と同一建物内に本社を有し、原告と実質的に同一会社ともいうべき訴外株式会社マグジャンの名をもって、城東税務署長に対して「無双」について同趣旨の照会をしたが、城東税務署長は、「無双」もまた物品税の課税物品である「テーブル」に該当する旨を教示したこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

4  原告の対応

前掲甲九号証、成立に争いのない甲二号証の一ないし三の各一、二、及び官公署作成部分の成立につき争いがなく、原告代表者本人尋問の結果によりその余の部分の成立も認められる甲八号証及び一〇、一一号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙五号証、原告代表者本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、原告は、「無双」が物品税法の課税物品に該当しないのではないかと考えていたが、国税庁及び城東税務署長の前記教示、課税実務の取扱を知ったので、「無双」の販売に当たり、テーブル部分と洗牌、積牌、配牌を自動的に行う機械部分とを格別に梱包、価格設定して移出し、テーブル部分だけでも手打ち式麻雀テーブルとして使用できるが、これに機械部分を取り付けると全自動式麻雀テーブル「無双」として使用できるようにし、これを前提として右別売に係るテーブル部分についてのみ課税標準額及び税額を算出して本件申告を行ったことが認められ、この認定に反する趣旨の原告代表者本人の供述部分は、右各書証に照らして措信できない。

三  申告の効力

以上の事実関係を前提として判断すると、原告がした本件物品税申告の対象物品は手打ち式麻雀テーブルとして使用できるテーブル部分であるところ、このテーブル部分は物品税法別表第二種第一三号3の「テーブル」に該当するものと解されるから、これを前提とする原告の物品税申告には何の錯誤もなく、この申告は有効である。

もっとも、原告が前記二4のとおりの「無双」をテーブル部分と機械部分とに分けて移出することにした理由は、「無双」全体としては課税物品に該当するとする国税庁、税務署の教示、取扱実務があった点に存する。しかし、昭和三七年三月三一日法律第四八号による物品税法の改正の経緯からすると、自動式もを含む麻雀テーブルが物品税法別表第二種第一三号3掲記の「テーブル」に該当するとの解釈が全く理由のないものではなく、このような解釈が客観的にみて誤りであることが当時明白であったとは断定できないうえ、原告のこの点の錯誤は申告自体に関するものではなく、取引の方法選択の動機に関するものであることを考慮すると、原告の本件申告が当然に無効であるとすることはできない。

四  結論

そうすると、本件申告は有効であって、これに基づく物品税納付は正当なものであるから、この還付と還付加算金の支払を求める原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 綿引万里子 裁判官 朝日貴浩)

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